コロンビア大学ソーシャルエンタープライズプログラム(社会事業専修)の学生たちと一緒に、ニューイングランド地方の企業を訪ねる研修旅行に出かけた。ボストンのあるマサチューセッツ州とその周辺の地域は、豊かな自然環境に恵まれる一方で、ハーバード大学やMITなど高い水準を誇る高等教育機関が存在するお陰で意識の高い人々が多いとされる。そんなことも影響してか、自然素材を使ったナチュラルオーラルケア用
トムズ・オブ・メイン(本社メイン州ケンネバンク)やナチュラル洗剤・トイレタリー用品の
セブンスジェネレーション(バーモント州バーリントン)など、環境保護や社会的責任を標榜する米国の代表的な企業の拠点が集中している。今回はその一つ、オーガニック乳製品の
ストーニーフィールド・ファーム(ニューハンプシャー州ロンドンデリー)を訪れた。

ストーニーフィールドは売上高1億7400万ドル、ヨーグルトだけで言えば全米第3位のブランドを誇る。これだけなら単なる地方に拠点を置く大企業の1つにしか見えないが、同社の存在感はビジネス活動に伴う環境への負荷を抑えながら、得られた利益を使って社会的責任を果たすことを目指す様々な取り組みにある。例えば、
−農薬や化学肥料、成長ホルモン剤などを使っていないことを証明した米農務省の有機認証を得た製品が全体の約80%
−パッケージの軽減化 ヨーグルトの蓋をプラスチックからアルミ箔に変えたことで年間100万ドルを節約
−全米の自然エネルギープロジェクトへの投資を通じて、1996年に米国の製造業として初めて二酸化炭素(CO2)排出の相殺を達成。CO2相殺によって10年間で約170万ドルを節約
−”Profits for the Planets”プログラムでは毎年、税引き前利益の10%を環境・社会活動に携る非営利団体などに寄付
−子どもの健康・肥満問題解決への貢献策として、自社のオーガニック製品を積んだ自動販売機を各学校に1年間無償でリースする”Healthy Vending”の実験プログラムを実施中
できるだけ利益を上げようとするビジネスにしてみれば、これらの取り組みはいずれも「余分な出費」を伴うものばかり。しかし、同社の創業者ゲーリー・ハーシュバーグCEOは「良いことにお金が使われることに対して、株主からの反対は全くない」と涼しげな顔で話す。
ストーニーフィールドは2001年に仏食品大手ダノンの傘下に。その前年には、アイスクリーム大手ベン&ジェリーが英食品大手ユニリバーに買収された。当時、社会的責任ビジネスのパイオニアと言われてきたベン&ジェリーの衰退を思わせる数々のエピソード (社会責任ビジネスへの関心が全くないCEOがユニリバーから送りこまれたり、創業以来初めて大規模なレイオフが行われたり…)に接してきた世間からは「ストーニーフィールズも多国籍企業に魂を売ったのか」と揶揄されたものだった。しかし、ハーシュバーグCEOは「もしダノンがすべての製品をオーガニックに変えれば、オーガニックの耕作地が220万ヘクタール増え、これはアメリカの2001年のオーガニック耕作面積に相当するほどのインパクトだ!」と意に介す様子はない。そればかりか、最近には全ての素材がオーガニックというファーストフードレストラン
O’Naturalsの全国展開をスタートさせた。ストーニーフィールドがダノンによる買収後も「オーガニックを通じて地球環境を救う」という社会的使命を維持し続けられているのは、大志を抱く理想主義者でありながら実に冷静なリアリストでもあるハーシュバーグCEOのキャラクターに依るところが大きいと感じた。
ベン&ジェリー創業者のベン・コーヘンは、ユニリバーによる買収から2年後「ベン&ジェリーの魂だったものの多くがもはや存在しなくなってしまった」と嘆いた。ダノンは2016年にストーニーフィールドを完全買収することができる。その時、60歳を超えることになるハーシュバーグCEOは引退しているかもしれない。ストーニーフィールドを含む数々の今ある社会責任ビジネスが5年後10年後、果たしてベン&ジェリーの轍を踏まずに社会的理念を保ちながら生き続けられるのか−。興味は尽きない。