6月2日(木)の日経新聞夕刊生活面で、社会起業家的なライフスタイルを取り上げた雑誌Worthwhileが人気を集めているという記事を書きました。これを読んで下さっている皆さんにはもうおなじみですね。どうぞご覧下さい。
 コロンビア大学ソーシャルエンタープライズプログラム(社会事業専修)の学生たちと一緒に、ニューイングランド地方の企業を訪ねる研修旅行に出かけた。ボストンのあるマサチューセッツ州とその周辺の地域は、豊かな自然環境に恵まれる一方で、ハーバード大学やMITなど高い水準を誇る高等教育機関が存在するお陰で意識の高い人々が多いとされる。そんなことも影響してか、自然素材を使ったナチュラルオーラルケア用 トムズ・オブ・メイン(本社メイン州ケンネバンク)やナチュラル洗剤・トイレタリー用品のセブンスジェネレーション(バーモント州バーリントン)など、環境保護や社会的責任を標榜する米国の代表的な企業の拠点が集中している。今回はその一つ、オーガニック乳製品のストーニーフィールド・ファーム(ニューハンプシャー州ロンドンデリー)を訪れた。

ストーニーフィールド


 ストーニーフィールドは売上高1億7400万ドル、ヨーグルトだけで言えば全米第3位のブランドを誇る。これだけなら単なる地方に拠点を置く大企業の1つにしか見えないが、同社の存在感はビジネス活動に伴う環境への負荷を抑えながら、得られた利益を使って社会的責任を果たすことを目指す様々な取り組みにある。例えば、

−農薬や化学肥料、成長ホルモン剤などを使っていないことを証明した米農務省の有機認証を得た製品が全体の約80%
−パッケージの軽減化 ヨーグルトの蓋をプラスチックからアルミ箔に変えたことで年間100万ドルを節約
−全米の自然エネルギープロジェクトへの投資を通じて、1996年に米国の製造業として初めて二酸化炭素(CO2)排出の相殺を達成。CO2相殺によって10年間で約170万ドルを節約
−”Profits for the Planets”プログラムでは毎年、税引き前利益の10%を環境・社会活動に携る非営利団体などに寄付
−子どもの健康・肥満問題解決への貢献策として、自社のオーガニック製品を積んだ自動販売機を各学校に1年間無償でリースする”Healthy Vending”の実験プログラムを実施中

 できるだけ利益を上げようとするビジネスにしてみれば、これらの取り組みはいずれも「余分な出費」を伴うものばかり。しかし、同社の創業者ゲーリー・ハーシュバーグCEOは「良いことにお金が使われることに対して、株主からの反対は全くない」と涼しげな顔で話す。

 ストーニーフィールドは2001年に仏食品大手ダノンの傘下に。その前年には、アイスクリーム大手ベン&ジェリーが英食品大手ユニリバーに買収された。当時、社会的責任ビジネスのパイオニアと言われてきたベン&ジェリーの衰退を思わせる数々のエピソード (社会責任ビジネスへの関心が全くないCEOがユニリバーから送りこまれたり、創業以来初めて大規模なレイオフが行われたり…)に接してきた世間からは「ストーニーフィールズも多国籍企業に魂を売ったのか」と揶揄されたものだった。しかし、ハーシュバーグCEOは「もしダノンがすべての製品をオーガニックに変えれば、オーガニックの耕作地が220万ヘクタール増え、これはアメリカの2001年のオーガニック耕作面積に相当するほどのインパクトだ!」と意に介す様子はない。そればかりか、最近には全ての素材がオーガニックというファーストフードレストランO’Naturalsの全国展開をスタートさせた。ストーニーフィールドがダノンによる買収後も「オーガニックを通じて地球環境を救う」という社会的使命を維持し続けられているのは、大志を抱く理想主義者でありながら実に冷静なリアリストでもあるハーシュバーグCEOのキャラクターに依るところが大きいと感じた。

 ベン&ジェリー創業者のベン・コーヘンは、ユニリバーによる買収から2年後「ベン&ジェリーの魂だったものの多くがもはや存在しなくなってしまった」と嘆いた。ダノンは2016年にストーニーフィールドを完全買収することができる。その時、60歳を超えることになるハーシュバーグCEOは引退しているかもしれない。ストーニーフィールドを含む数々の今ある社会責任ビジネスが5年後10年後、果たしてベン&ジェリーの轍を踏まずに社会的理念を保ちながら生き続けられるのか−。興味は尽きない。
  今学期は、地球環境や従業員の労働条件への配慮といった社会的責任を果たしつつ利益を上げることを重視し始めたグローバル企業の動向を学ぶ「Business in Society」という授業と、ビジネス的手法を用いながら世界や地域の課題を解決しようと挑む非営利団体が台頭する現状や直面する課題などを学ぶ「Social Entrepreneur」という授業を聴講している。先日、後者の授業の“課外学習”ということで、ニューヨーク州とその周辺計7カ所で20年弱にわたってホームレスの自立支援に取り組んでいることで定評のある非営利 Doe Fundのハーレムにある施設を訪れた。

 *先学期の授業とニューヨーク市のホームレス問題に関しては、以下の過去ログにあります。
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レストラン天国のもうひとつの顔

Doe Fund



 Doe Fundは、ホームレス問題の解決を公約に掲げて市議会議員に立候補しようとしていたビジネスマンだったジョージ・マクドナルド氏が、手伝っていた炊き出しで知り合ったホームレスの女性が何の医療支援も得られないままグランドセントラル駅構内で死んでいたのにショックを受け、立候補をやめて自ら設立した組織だ。食事と住居というホームレスの人たちの一時的なニーズを満たすシェルターを運営するだけでなく、アルコール・薬物中毒でない人たちを選んで彼らが経済的に自立できるようにするための職業訓練プログラムもセットで実施している点が、シェルター運営一辺倒な行政や職業訓練プログラムのみ実施している他のホームレス自立支援組織とは大きく異なる。Doe Fund自身も、この点がホームレス問題解決に最も効果的な手法だという自負を持って活動している。

 1年半に及ぶ訓練期間中、訓練生たちは路上の清掃・美化や企業のダイレクトメール発送、市内の害虫駆除といったビジネスを行うDoe Fund設立の会社組織に勤務しながら収入を得て、その中から家賃を支払い貯金もしながら暮らす。路上の清掃・美化サービスはマンハッタンの至るところで行われているので、ニューヨークに滞在すればDoe Fund特製の青色のユニフォームを着て一生懸命仕事をしている訓練生たちに出会えるはずだ。こうして訓練を無事に修了した人たちのうち、半数余がDoe Fund内部や外部で仕事を得て自立していくという。

 マクドナルド氏らから一通りの説明を受けてハーレムの施設内を見学している途中、訓練プログラムを修了して現在はDoe Fundで施設内ガードマンとして勤務している40代ぐらいの元ホームレスの男性に出会った。彼は私たち一行の前で、自分は2歳の頃からシェルターを転々としていたこと、Doe Fundの施設にたどり着き訓練を受けたことで生まれて初めて生きる目的を与えられたこと、そんなDoe Fundは私にとって神も同然の素晴らしい存在だ、などと語ってくれた。

 別れ際に「今の仕事はどう?」と私たちが聞くと、彼は笑顔で“I love being expert!”と答えてくれた。エキスパートとして生きる喜び−。働きながら収入を得て貯金するという人間としてのささやかな営みすらも許されなかった境遇にいた彼の一言は、忙しい日々の中でつい忘れがちになるささやかな日常の尊さと有難さを思い起こさせてくれる。ちょっとハッとさせられた瞬間だった。
 ビジネスを通じて環境・社会問題の解決を目指す社会起業家(ソーシャルアントレプレナー)。日本でもよく知られているボディショップ(ナチュラルケア用品)のアニタ・ロディックやベン&ジェリー(アイスクリーム)のベン・コーヘンらを先駆者とする高い問題意識を持った起業家たちがここ10年ぐらいで育った一方で、サラリーマンの間でも仕事をできる限り自分の価値観に近づけるべくキャリアチェンジする人が増えている。そんな、働き方や仕事に対する人々の意識変化の潮流をうまくとらえたユニークなビジネスマガジン「worthwhile」が創刊した。

worthwhile


 ビジネス雑誌と言うと、大半は何かの仕事を「どううまくこなすか」とか、何かの商品を「どう売るか」そして「どう儲けるか」という点を切り口にしているものが多い。しかし、worthwhileはこうしたこと以前に「その仕事で、その働き方で本当にいいの?」と問いかける。

 なぜ、そんな問いかけが必要なのか。ウォールストリートジャーナル記者としてビジネスの最前線に触れてきた共同編集長のアニタ・シャープ氏は、創刊メッセージで高らかと宣言している。「その人が誰かを語る上で仕事が大きな要素だということは小学校1年生でも分かることだし、私たちは生まれてきたからには自分よりも大きな何かを残したいと願っているはず。でも、そんな小さな私たちの願いは既存のメディアでは完全に見落とされてきた。私たちはその暗闇に光を当てたい」。

 創刊号の特集記事は、ずばり”love your work life”。1970年代にカリフォルニア州バークレーに地元産オーガニック素材を使ったレストランを開業したオーガニック界のカリスマ、アリス・ウォータース氏ら社会起業家のパイオニアから、途上国の子どもたちに本を無償で送るNGOを始めた元マイクロソフト社員(男性)や、貧困層に安価な薬を提供する米国初の非営利製薬会社を創業した元大手製薬会社研究職(女性)といったサラリーマンから転じた新米社会起業家たちまで、「仕事と人生をこよなく愛する」人たちのパーソナルストーリーが満載だった。

 ここで紹介されている人たちに共通するのは、「社会性に富んでいる」事業に「本人が一番楽しみ」ながら取り組み、人生の全てを賭けて突き進んでいることだ。worthwhileのモットーは、“work with purpose, passion and profit”−。人生を賭けるに値する仕事をしながら、充実した人生を送りたいと願うすべての人にお勧めできるその名も「worthwhile」。第二号が発売されたので、また買いに行くとしよう。
 800万対48万−。これ、何を指す数字かお分かりになるだろうか。800万はニューヨーク市の人口、そして48万とはその中で「スープキッチン」などと呼ばれる貧困層向けの食料配給を受けている人たちの数だ。12月11日土曜日の早朝、フルブライト奨学プログラムで滞在している同僚たちと一緒に、イーストビレッジのある教会が主催するスープキッチンにボランティアに出掛けてきた。

 この教会は毎週土曜日、礼拝場を開放して近隣の住民ら約500人に朝食を提供している。この日のメニューは、目玉焼きにソーセージ、マッシュポテト、そしてスライスブレッド。給食当番よろしくエプロンに頭巾姿で食材の準備を整えていると、間もなく外で列を作っていた人々が続々と入ってきた。ホームレスらしき出で立ちでやって来る男性、大家族でやってくる人たち、近所にチャイナタウンがあるためか中国系の人々の多さも目についた。めいっぱいの笑顔で「グッドモーニング!」と手を振りながらやって来る人たちの姿には、何だか胸が詰まる思いがする。

 食事中は市のソーシャルワーカーが待機していて、家探しや職業訓練の相談に応じる。この教会の隣にはアイスクリーム屋があり、職業訓練を受けた人々がここで働くことができる。食事の提供だけにとどまらないこうした多角的な支援を通じて貧困層の自立を目指すプログラムは、NY市内のあちらこちらで行われているが、ホームレス=貧困問題はそう簡単に解決するものではない。

 2001年に行われた貧困層の飢餓に関するNY市の調査によると、食料配給に頼っている世帯の月収は平均で600−750ドル。一晩で簡単に1000ドル(10万円余)消えてしまう超高級レストランがゴロゴロするこの街の、紛れもないもう一つの顔が垣間見える。

midtown


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