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Blue Statesの憂鬱

 米大統領選の開票当日、私はニューヨークのアーティストたちによる反ブッシュ運動の団体が主催する開票速報パーティーにいた。私たち一行が午後10時前ごろに到着すると、多くのアーティストや関係者で埋まった会場は、既に熱気でいっぱいだ。

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 メディア各社の当日出口調査ではケリーが優勢だったので、メディアも調査結果を伝え聞いたケリー陣営も当初「ケリー勝利」にかなり楽観的だったようで、会場にも同じようなムードが流れていた。だが、女性票が異常に多いなど出口調査のサンプリングに欠陥のあることが途中で明らかになると、メディアの論調にも次第に変化。大票田のフロリダでブッシュの勝利が決まると、ブッシュ当確を速報するメディアも現れ始めた。問題となったオハイオ州での決着がつかず、ケリーの勝利も絶望的に。同じテーブルに座っていたオハイオ州出身の女性は「ごめんなさい、私の力が足りなかったわ」と言い残して、会場を去っていった。

 そして翌朝のケリーの敗北宣言。ケリーが勝った太平洋と大西洋両岸の各州=Blue Statesのリベラルアメリカンたちからは、ブッシュ再選という信じられない結果を前に落胆と絶望の声が聞こえてくる。

「全体主義国家の下で、私はもしかしたら一生涯下を向きながら生きなければならないのかもしれない」(オレゴン州ポートランドで 45歳女性)
「とても落胆しているけれど、同時に私たち以外の他のアメリカ人たちの無知さ加減に本当に腹が立つ」(サンフランシスコで 29歳女性)
(いずれも4日付ニューヨークタイムズより)

 ロイター通信によると、ブッシュ再選が決まった3日、カナダ移民局のウェブサイトに米国から通常の6倍のアクセスがあったのだとか。”宗教国家”である祖国を捨て、米国よりもリベラルとされる隣国カナダで新生活を送りたいと願う人々が増えているのではないかとの憶測を増幅させている。私がアメリカ人なら、同じことをしてしまいそうだ。
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ブッシュ再選となった米大統領選。7日時点で、ブッシュ共和党は大統領選史上最高の5965万余(得票率51%)の一般票を獲得したことになった。"How can be 59,054,087 people be so DUMB?"との4日付の英デーリーミラー紙の見出しには、ケリー支持の国際世論の偽らざる心情をうまくすくっているようで思わず笑ってしまったが、過去に例のない規模で大量のアメリカ人がブッシュを支持した現実には笑いを止めざるを得ない。

 ケリー敗退の原因としては、▼投票直前に流れたビン・ラディン氏のビデオ映像が、結果としてブッシュへの強力な応援演説になった▼共和党による強烈な投票掘り起こし作戦に勝てなかった▼ブッシュに比べて笑みが足りなった(親しみやすさを植え付けられなかった)-といったあたりが一般的な要素として挙げられるだろう。しかし、米主要メディアが合同で全国規模で実施した出口世論調査の結果を見ると、今回の大統領選の本当の争点は「政策」などではなく、結局のところ「価値観」だったのではないかと思わずにはいられない。

 今回の選挙を前回のような”大接戦”にするのを避けるため、ブッシュ陣営が取った作戦はズバリ「プロテスタントを起こせ!」。伝統的な支持基盤である宗教票の中でも、特に前回選挙で棄権が多かったとされるプロテスタント票の掘り起こしが至上命題となった。前回も書いたようにアーミッシュコミュニティーにまで手を伸ばしていた事実からも、この作戦が相当浸透していたことが伺える。そして、蓋を開ければ投票率は前回の51%から55%以上に大幅アップ。保守系宗教団体の幹部が3日付のニューヨークタイムズ紙のインタビューで、マサチューセッツ州が同性愛結婚を認めた決定が「私たちを目覚めさせた」と語っていたように、聖書が定める価値観の揺らぎに黙っていられなくなったプロテスタントたちが今回は投票所に赴いたようだ。

 これは、出口調査の結果からも見て取れる。「投票する上で最も重要な争点は何だったか」という質問に対する回答は以下の通り(左がブッシュに投票、右がケリーに投票)。

Moral values    80% 18%
Economy/Jobs   18% 80%
Terrorism 86% 14%
Iraq 26% 73%
Health Care 23% 77%
Taxes 57% 43%
Education 26% 73%

 ブッシュに投票した有権者、イコール多数のアメリカ人の関心は、極端に言ってしまえば「価値観」と「テロ」だけ。イラクも内政問題もどうでも良かった。だからこそ、ビン・ラディン演説が彼らの恐怖心を煽って、対テロ戦争に断固とした態度を取ると見なされているブッシュへの強力な応援となった。そして、カトリック教徒にもかかわらず同性愛や中絶を容認しているケリーは「何を信じているのか分からない」(オハイオ州の45歳女性)、「重要な価値観を私たちと共有していない」(同38歳男性)”北東部のリベラル”と見なされて敗れ去った。3回の討論会を通じて環境問題が一度もまともな争点とならなかったとの評価が一部であったが、環境問題どころか政策そのものが争点にすらならなかった。こんな選挙では、政策面での評価では勝っていたとされたケリーに勝てる余地は残念ながらなかったとしか言いようがない。

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 さて、2回連続で大統領選に負けた民主党。2008年に向けて、早くも「価値観闘争」に耐えうる候補者探しが始まっている。現行の選挙制度で共和党を破るには、今回真っ赤に染まってしまった中南部をどう取り返すかにかかってくるということは、民主党からの最近の大統領であるクリントンとカーターの戦績を見れば明らかだ。中南部の各州で地道に選挙人を獲得して勝利した両者に共通するのは、「プロテスタント」そして「南部出身(または在住経験あり)」であるということ。現時点でこの条件にマッチする有力者と言えば、今回の副大統領候補のジョン・エドワードとご存知ヒラリー・クリントンの両上院議員となる。 
 クリントン大統領の側近だった某下院議員氏は、ブッシュ勝利を報じた4日付のニューヨークタイムズ紙でこう語っている。ニュアンスをお伝えするためにあえて訳さずにご紹介したい。

"We need a nominee and a party that is confortable with faith and values.And if we have one, then all the hard work we've done on Social Security or America's place in the world or college education can be heard. But people aren't going to hear what we say until they know that we don't approach them as Margaret Mead would an anthropological experiment."

 選挙で政策よりも価値観が重視される”民主主義国家”を崇めるのは、そろそろ考え直したほうがいいかもしれない。
 先週末、あと10日弱に迫った大統領選挙を控えたニューヨークの雰囲気を体験しようと銘打った催しがあり、市民に投票を促す啓蒙的な活動をしている2つの市民団体(うち1つは女性向け)と、民主党のケリー・エドワード陣営のNY州選挙事務所を訪問した。当日は、フルブライト奨学生としてニューヨークとその周辺に滞在している欧州各国やメキシコ、台湾、日本からの20人余が集結。細かい選挙制度の違いこそあれ、国政選挙は全国統一した方法で行われる国々から来た人たちがほとんど。なので、市民団体でのディスカッションでは、2000年大統領選開票の大混乱の遠因となったアメリカの摩訶不思議な選挙制度に話題が集中し

 アメリカではどの選挙でもいちいち事前に登録をしないと投票できない(日本の在外投票のシステムをほぼ同じと考えてもらえばいい)。これに対しては「選挙権を持っている人に地方自治体から通知票を郵送し、それを各自が持参して投票すればいいだけのことじゃな~いの?」という質問が出て、一同ウンウンと頷いた。また、国政レベルの選挙にもかかわらず州ごとに異なるシステム(事前登録の仕方から実際の投票方法の細部、選挙人の割り当て方まで違う)を採用しているが故に面倒な問題が生じているので、「地方選挙で各地独自のシステムを採用するのは結構だけど、いくら合衆国とはいえ連邦レベルの選挙では制度を統一すべきでは?」という質問にも、一同大きく相槌。「何で選挙を日曜日にやらないのか理解できない!」という質問をきっかけにその場で“世論調査”したところ、日曜投票に手を挙げた人が8割だった。確かに、私たち外国人にとってこの国の選挙制度には納得し難い部分が数多くある。

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これは、現在でも使われているパンチ式投票機。ほとんど骨董品モノ。

 市民団体の人たちの回答も、どうもしっくり来ない。彼らも選挙制度の抱える問題が投票率の低下や政治への無関心を助長しているとは認識しているけれども、私たちが先に質問したような制度の根幹に関わることについては、どういう訳か「最初から変えられないこと」としてしか物事を考えていない。毎回投票登録に行き、平日に投票できない平均的な勤め人は不在者投票をし、そこまでしても自分が投票した候補者が州全体で勝たないと“死票”になってしまう。フロリダ州の例を持ち出すまでもなく、もしかするとせっかく投じた自分の票が数えられないかもしれないとすれば-。私だってつい面倒になってしまいそうだ。世界を制する壮大な計画作りに関しては良きにつけ悪しきにつけダイナミックな議論を展開するアメリカ人が、自分たちの足元を支えるシステムに対しては凝り固まった発想しかできないのはどうしてだろうかと不思議に感じられた。

 ケリー・エドワード事務所で説明してくれたニューヨーク州議員の話によると、今回の選挙で前回のような混乱が起きた際に備え、全国の民主党支持の弁護士ボランティアが選挙当日、共和・民主両党が拮抗しているいわゆるswing states各州に散らばって投票所周辺で監視活動を行い、万が一不正が疑われる事態が発生した場合に即刻裁判所に訴えられるようスタンバイするのだそうだ。大統領選当日まであと6日。何やら、また混乱しそうな気配を感じるのは私だけだろうか。
 やって来ました、ニューヨーク!でも、タイミングの悪いことに8月30日から9月2日まで行われた共和党大会の厳戒警備と重なり、会場周辺は歩けないわ、地下鉄やバスは通常ルートを変更するわで、NY生活初心者としては想像以上の暑さと湿気も手伝って何とも苦痛な最初の1週間余りだった。でも、過剰警備の甲斐あってか大会は無事に終了。大会そのもののニュースは日本のメディアにお任せして、今日は大会中にNYを賑わせた反ブッシュデモで感じた世論の空気をご紹介したい。??反ブッシュデモは大会前の週末から断続的に始まり、前日29日には反戦平和から環境保護、反GM(遺伝子組み換え)食品、フェミニストまで様々な団体が集結した最大規模のデモがあった。

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 私はそのうちの一つ、富裕層・大企業寄りで戦争好きなブッシュ政権を痛烈な皮肉で批判する「ビリオネアー・フォー・ブッシュ」というグループの人たちとセントラルパークから1時間ほど一緒に歩いた。”No more war!” じゃなくて”For (またはFour)more war!”、”Leave no poor behind”じゃなくて”Leave no billionaire behind”といった具合のシュプレヒコールをあげながら、金持ちを皮肉る意味でわざとドレスアップして行進するのが彼らのスタイル。ピンクの服を着たフェミニスト団体が真正直に”no more war!”と言っているのを見るよりも、実ははるかに面白い(もちろん、真剣な反戦平和運動も大切です)。民主党はこのグループで意味するところのbillionaire=中間層に恩恵の届く減税策を公約しているので、彼らの中には民主党のケリー候補を応援している人たちが多い。

 Billionaireたちと別れて、今度は党大会会場となったマジソン・スクエアガーデン周辺のデモを見に行った。すると、反ブッシュ・ケリー支持とはちょっと違うメッセージを掲げた人が何人かいた。”Bush loves war. Kerry loves veterans. What will you do? (ブッシュは戦争好き ケリーは退役軍人好き さて、あなたはどうする?) ”、”Either Bush wins or Kerry wins, we are loser (ブッシュが勝ってもケリーが勝っても、私たちは敗者だ) ”-。そう、実はブッシュもケリーも特に安全保障・テロ対策では政策面で大きな違いが見えない=有権者にとって選択肢がない、ということこそが今回の大統領選の最大の“争点”なのかもしれない。先日も、地下鉄車内で隣り合わせた人が「ブッシュが勝ってもケリーが勝っても、米軍はイラクに残る。結局“どっちがましか”を選ぶ選挙だよ」と言っていた。11月3日の大統領選までの2ヵ月間、アメリカでは“ましな大統領”選びのためのお祭り騒ぎが続く…。

 コロンビア大学客員研究員として、これから1年弱ニューヨークに滞在することになりました。人もクルマも情報もあふれんばかりのニューヨークに押し流されないよう、私なりの視点を持ちながら渡り歩いて(サーフィンして)、知り、感じたことをお伝えしたいという願いを込めて「サーフィンNew York」と名付けてみました。どうぞご贔屓に。

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