ブッシュ再選となった米大統領選。7日時点で、ブッシュ共和党は大統領選史上最高の5965万余(得票率51%)の一般票を獲得したことになった。"How can be 59,054,087 people be so DUMB?"との4日付の英デーリーミラー紙の見出しには、ケリー支持の国際世論の偽らざる心情をうまくすくっているようで思わず笑ってしまったが、過去に例のない規模で大量のアメリカ人がブッシュを支持した現実には笑いを止めざるを得ない。
ケリー敗退の原因としては、▼投票直前に流れたビン・ラディン氏のビデオ映像が、結果としてブッシュへの強力な応援演説になった▼共和党による強烈な投票掘り起こし作戦に勝てなかった▼ブッシュに比べて笑みが足りなった(親しみやすさを植え付けられなかった)−といったあたりが一般的な要素として挙げられるだろう。しかし、米主要メディアが合同で全国規模で実施した出口世論調査の結果を見ると、今回の大統領選の本当の争点は「政策」などではなく、結局のところ「価値観」だったのではないかと思わずにはいられない。
今回の選挙を前回のような”大接戦”にするのを避けるため、ブッシュ陣営が取った作戦はズバリ「プロテスタントを起こせ!」。伝統的な支持基盤である宗教票の中でも、特に前回選挙で棄権が多かったとされるプロテスタント票の掘り起こしが至上命題となった。
前回も書いたようにアーミッシュコミュニティーにまで手を伸ばしていた事実からも、この作戦が相当浸透していたことが伺える。そして、蓋を開ければ投票率は前回の51%から55%以上に大幅アップ。保守系宗教団体の幹部が3日付のニューヨークタイムズ紙のインタビューで、マサチューセッツ州が同性愛結婚を認めた決定が「私たちを目覚めさせた」と語っていたように、聖書が定める価値観の揺らぎに黙っていられなくなったプロテスタントたちが今回は投票所に赴いたようだ。
これは、出口調査の結果からも見て取れる。「投票する上で最も重要な争点は何だったか」という質問に対する回答は以下の通り(左がブッシュに投票、右がケリーに投票)。
Moral values
80% 18%
Economy/Jobs 18% 80%
Terrorism
86% 14%
Iraq 26% 73%
Health Care 23% 77%
Taxes 57% 43%
Education 26% 73%
ブッシュに投票した有権者、イコール多数のアメリカ人の関心は、極端に言ってしまえば「価値観」と「テロ」だけ。イラクも内政問題もどうでも良かった。だからこそ、ビン・ラディン演説が彼らの恐怖心を煽って、対テロ戦争に断固とした態度を取ると見なされているブッシュへの強力な応援となった。そして、カトリック教徒にもかかわらず同性愛や中絶を容認しているケリーは「何を信じているのか分からない」(オハイオ州の45歳女性)、「重要な価値観を私たちと共有していない」(同38歳男性)”北東部のリベラル”と見なされて敗れ去った。3回の討論会を通じて環境問題が一度もまともな争点とならなかったとの評価が一部であったが、環境問題どころか政策そのものが争点にすらならなかった。こんな選挙では、政策面での評価では勝っていたとされたケリーに勝てる余地は残念ながらなかったとしか言いようがない。

さて、2回連続で大統領選に負けた民主党。2008年に向けて、早くも「価値観闘争」に耐えうる候補者探しが始まっている。現行の選挙制度で共和党を破るには、今回真っ赤に染まってしまった中南部をどう取り返すかにかかってくるということは、民主党からの最近の大統領であるクリントンとカーターの戦績を見れば明らかだ。中南部の各州で地道に選挙人を獲得して勝利した両者に共通するのは、「プロテスタント」そして「南部出身(または在住経験あり)」であるということ。現時点でこの条件にマッチする有力者と言えば、今回の副大統領候補のジョン・エドワードとご存知ヒラリー・クリントンの両上院議員となる。
クリントン大統領の側近だった某下院議員氏は、ブッシュ勝利を報じた4日付のニューヨークタイムズ紙でこう語っている。ニュアンスをお伝えするためにあえて訳さずにご紹介したい。
"We need a nominee and a party that is confortable with faith and values.And if we have one, then all the hard work we've done on Social Security or America's place in the world or college education can be heard. But people aren't going to hear what we say until they know that we don't approach them as Margaret Mead would an anthropological experiment."
選挙で政策よりも価値観が重視される”民主主義国家”を崇めるのは、そろそろ考え直したほうがいいかもしれない。